万葉集原文と現代仮名文
万葉集9巻-1755 高橋虫麻呂
鴬之 生卵乃中尓 霍公鳥 獨所生而 己父尓 似而者不鳴 己母尓 似而者不鳴 宇能花乃 開有野邊従 飛翻 来鳴令響 橘之 花乎居令散 終日 雖喧聞吉 幣者将為 遐莫去 吾屋戸之 花橘尓 住度鳥

鴬の 卵の中に 霍公鳥(ほととぎす) 独り生れて 己が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず 卯の花の 咲きたる野辺ゆ 飛び翔り 来鳴き響もし 橘の 花を居散らし ひねもすに 鳴けど聞きよし 賄はせむ 遠くな行きそ 我が宿の 花橘に 住みわたれ鳥


万葉集19巻-4166 大伴家持
毎時尓 伊夜目都良之久 八千種尓 草木花左伎 喧鳥乃 音毛更布 耳尓聞 眼尓視其等尓 宇知嘆 之奈要宇良夫礼 之努比都追 有争波之尓 許能久礼<能> 四月之立者 欲其母理尓 鳴霍公鳥 従古昔 可多<里>都藝都流 鴬之 宇都之真子可母 菖蒲 花橘乎 ・嬬良我 珠貫麻泥尓 赤根刺 晝波之賣良尓 安之比奇乃 八丘飛超 夜干玉<乃> 夜者須我良尓 暁 月尓向而 徃還 喧等余牟礼杼 何如将飽足


時ごとに いやめづらしく 八千種に 草木花咲き 鳴く鳥の 声も変らふ 耳に聞き 目に見るごとに うち嘆き 萎えうらぶれ 偲ひつつ 争ふはしに 木の暗の 四月し立てば 夜隠りに 鳴く霍公鳥 いにしへゆ 語り継ぎつる 鴬の 現し真子かも あやめぐさ 花橘を 娘子らが 玉貫くまでに あかねさす 昼はしめらに あしひきの 八つ峰飛び越え ぬばたまの 夜はすがらに 暁の 月に向ひて 行き帰り 鳴き響むれど なにか飽き足らむ